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勿忘草~戯曲集~

勿忘草~戯曲集~

第3場・夢幻~第4場・休息

  夜、街の中
  女性が2人組の男にからまれている
  女性(以後・女A)
  男性2人(以後・男A、女B)
  
  
男A いいじゃねえかよ、遊ぼうぜ!
女A やめて下さい!!
男B どうせ暇なんだろ?だったらいいじゃん!
女A やめてって!!


  男A 強引に女の腕をつかみ引っ張る
  

男A いいから、こいよ!


  激しい音楽と共に健介が現れる
  
  
健介 やめろ~!!!


  男2人、声に驚き振り返る
  同時に女 男Aの手を振り切り、健介の方へ走り寄る
  

女A 助けて下さい!お願いします!
男A 誰だ!貴様~!!
健介 ここは俺に任せて、あなたは早く逃げなさい。
女A でも・・・。
健介 早く!


  女 頷いて走って逃げる
  男2人 健介に向かってくる
  
  
男A お前、なにしやがんだよ!
健介 嫌がるレディを強引にってのは、紳士じゃないな、
男A は!?


  男A 健介の胸ぐらをつかむ
  

男A 何、格好つけてんだよ!


  男A 健介に殴りかかる
  健介 捕まれている手を取り力を入れる
  
  バキバキッ!!
  
  音と共に男A 叫び声をあげる
  それを見て男B 向かってくる
  
  
男B お前!何をした!!
健介 いや、友情の証に握手をしただけだが・・・?
男B 何だと!


  男B 殴りかかってくる
  健介 その拳をひょいとかわし、男Bに足をかける
  男B つんのめって倒れ込む
  
  
男B くそ!
健介 あーすまん。痛かった?


  男B ナイフを取り出し構える
  
  
男B ぶっ殺してやる!
健介 ぶっ殺す?ぶっ殺すぶっ殺す・・・ぶっって何だ?


  男B 健介に向かいナイフを払う
  健介 ちょっと後ろに下がってそれをかわす
  
  
健介 だから、「ぶっ」て何?
男B うるせーっ!


  男B ナイフで健介を刺そうとする
  健介 くるっと回ってナイフをかわし男Bの横に立つ
  健介 そのまま男Bのナイフを持った手を手刀で叩きナイフを落とさせる
  

男B くそっ!お前何者だ!
健介 俺の質問には答えないで、そっちが質問かよ・・・まあいい、俺はな~!!


  一層音楽が激しくなり
  
  
健介 スーパーサラリーマン!!し・ん・た・に!!


  健介 そう言うと懐から名刺入れを取り出し、男Bに渡す
  
  
健介 困った時はご用命下さい!


  男B 名刺を受け取り
  

男B お、お前が新谷!?くそっ!!

  
  男B 男Aに肩を貸し逃げ出す
  
  
健介 街の平和は私が守る!


  逃げていた女が戻ってくる
  
  
女A ありがとうございました!
健介 ・・・ところで、「ぶっ」って何?


  場面は変わって研究所
  健介 リラックスチェアのような椅子に横になっている
  頭には、コードがたくさん付いたヘルメットのようなモノを被っている
  椅子の隣にはモニター 
  そのモニターを見ている白衣の女性(以後・女B)
  片山 モニターの隣に立っている
  
  
片山 あのさあ・・・。
女B はい?
片山 今のコントは・・・?
女B 新谷さんの脳内画像です。
片山 今のコントが?
女B ええ。
片山 あんなんでストレス無くなるのか?
女B ストレスの解消法に関しては、人それぞれですので。
片山 いや、だとしても・・・あれじゃあ、ただの面白サラリーマンじゃないか・・・。
女B 面白サラリーマン。結構じゃないですか?
片山 どういう意味だ?
女B このシステムは、確かにストレスを軽減させる効果を持っています。でも同時に、人の心の中までも覗いてしまうことになるのです。もしかすると自分でも気付いていない深層心理の願望までも・・・。
片山 じゃあ、新谷さんの願望が面白サラリーマンってことなのか!?
女B いえ、一度だけでは分かりません。何度か繰り返した結果出てくる共通点、これこそが真の願望なのです。
片山 なるほど・・・。
女B もし、そうして出てきた共通点が、誰か特定の人物の死。なんてことも、あり得る話なのです。それに比べれば、面白サラリーマン、大いに結構だと私は思いますよ。
片山 そうだな・・・。で?君は自分のは見てみたのか?
女B 私ですか?
片山 ああ。
女B いえ。
片山 何故?
女B 自分でも自分のコトが分からないから、人は生きてゆける・・・。自分のコトが分かってしまったら生きている意味のほぼ全てがなくなってしまう・・・そんな風に、私は考えておりますので。
片山 なるほどな。自分が分からないから生きてゆける・・・そうなのかもな。


  片山 眠っている新谷をみて軽くため息をつく


  場面変わって廃屋
  男が2人走って出てくる
  

男B くそ、あいつ何処行きやがった!
男A おまえがちゃんと見てればこんなことにはならなかったんだよ!
男B ・・・すいません。
男A どうすんだよ!ボスにばれたら、とんでもないことになるぞ!
男B まだ、遠くには行ってないハズですので・・・。
男A お前、どの位、目を離してたんだ?
男B ・・・2,3分だと・・・。
男A じゃあ、ここからはまだ出てないはずだな・・・。
男B しかし、ここも広いから・・・隠れられてると見つけるのは・・・。
男A ムズカシイか・・・
男B ですね。
男A ですね、じゃねえよ。何か考えろ!!
男B すいません・・・。


  男B 何かを思い出しポケットを探し1枚の紙を取り出す
  男A それに気付く
  
  
男A なんだ?それ。
男B いや、名刺なんですけどね。
男A 名刺?
男B ええ。
男A 誰の?
男B ・・・新谷。
男A 新谷!?俺の手を潰した奴か!
男B ええ。
男A なんで、お前が、あいつの名刺なんて持ってるんだよ!
男B あの時、困ったときは連絡をってくれたんっすよ。
男A まさか、電話する気じゃないだろうなあ!
男B そのつもりですけど・・・
男A お前、馬鹿だろ?俺達の手助けなんてするはずねえだろ!?
男B でも、困った時は連絡くれって・・・。
男A だから、正義の味方が・・・
男B 分かんないッスょ~。


  男B 携帯を取り出す
  

男A おい、本当に頼むのかよ!


  構わず、男B 名刺を見ながら電話をかける
  電話の着信音が鳴り、男A ポケットを探し携帯を取り出す
  しかし、携帯は鳴っていない
  
  携帯の着信音が止まる
  

男B あ、もしもし、新谷さんですか?


  健介 出てくる
  

健介 はい、そうですけど。


  男A 健介に気付く
  男B 健介に背中を向けてるので気付かない
  
  
男A 何で、お前こんなトコにいるんだ!
健介 ちょっと静かにして、電話中だから。あ、すいません、で、何ですか?
男B すいません、仕事を頼みたいんですが・・・。


  男A 状況に気付いていない男Bに気付く
  
  
男A お前も、何、流暢に電話してんだよ!!
男B ちょっと、静かにして下さいよ。電話してるんだから!!


  男B 男Aを見ずに答える
  健介 男Aを背にして電話を続けている
  
  
健介 え?何ですか?
男B あ、すいません。こっちのコトです。それで、ちょっと仕事を頼みたいんですが・・・
健介 仕事?
男B ええ。
健介 困ってるの?
男B ええ、凄く。


男A お前等さあ!!


  健介、男B 男Aを見ずに
  
  
2人 だから、うるさいって!!


  男A 何も言えずにその場に座り込む
  
  
男A はい、すいません・・・。


健介 で?何をして欲しいの?
男B 女を捜して欲しいんです。
健介 女?
男B ウチの組の裏帳簿を持って逃げやがったもので・・・。1回は捕まえたんですけど、帳簿の在処を聞き出す前にまた、逃げられて・・・。
健介 裏帳簿?

男A だろ?やっぱり、聞いてくれるはずねえって。

男B ええ・・・。
健介 見つからないと、困るのか?
男B 今日の夜にはボスが戻って来て・・・そん時に女に逃げられたのがバレたら、ヤバいんっすよ!
健介 そうか・・・分かった!

男A 分かるのかよ!!

健介 今、仕事中だからこれが片づいたら、すぐ行く。

男A もう、着いてるよ。

男B ありがとうございます!
健介 で、場所は?

男A ここに、いるって・・・。

男B 第8埠頭のB倉庫です。
健介 今は、使ってない?
男B ええ。よく知ってますね。
健介 いや、奇遇だなあ。俺、今そこにいるんだよ。
男B え?本当ですか?タイミングいいですねえ。
健介 いや、本当に。何か、この電話、声がやたら反響するなあ・・・。


  男A 我慢しきれず立ち上がり
  
  
男A いい加減、気付よ!!


  男B、健介 振り返りながら
  
  
2人 だから、うるさいって!!うわっ!


  男B、健介 お互いに気付く
  

健介 なんだよ、そこにいたのか。言ってくれよ。
男A 言ったよ!
男B でも、なんでココに?
健介 あ~それは・・・。


  女が後ろ向きで出てくる
  設定上、さっきとは違う女性だが、女Aに変わらず
  
  
女A あっちにはいないわ。


  女A 男達に気付く
  

女A あ!
男A 貴様!!
健介 なんだ、知り合いか?俺はこの人を逃がすって依頼を受けたんだ。
男B 俺達が捕まえて欲しいのは、そいつです!
健介 え~そうなの!?
男A よし、捕まえろ!
男B はい!


  女A 健介の背に隠れる
  
  
健介 まあ、待て。
男A 何だ!?
健介 だから、俺は、この人を逃がすって依頼を受けてるの。
男A だから、何だ!?
健介 だから?だから、捕まえるってなら全力で阻止するよ。
男A 何だと!じゃあ、俺達の依頼はどうなるんだ!
健介 そうなんだよなあ・・・どうしよっかなあ・・・。
男B お願いしますよ・・・もうすぐボスが帰ってきちまいますよ・・・。
健介 そうなんだよねえ・・・。
男A ・・・お前には、どっちかの依頼を断るって頭はないのか?
健介 ん?断って欲しいのか?
男A いや、そういう訳では・・・
健介 だろ?困るんだろ?
男A ああ・・・。
健介 だったら、そんな非建設的なコト言うな。もっと建設的な意見をくれ。
男A ・・・すまん。


  場面は戻って研究室


  片山 頭を抱えている
  
  
片山 なんか、夢の中でストレス抱えてないか?コレ。
女B すべての事象にはプロセスがあって結果があります。そして、そのプロセスもそれを結果としてプロセスがある。
片山 よく分からないが・・・。
女B つまり、メロンパンを食べるという結果があったとします。
片山 メロンパン?
女B 例え話ですので・・・。
片山 あ、ああ、続けてくれ。
女B メロンパンを食べる為には、メロンパンを買いに行くというプロセスがあります。
片山 ああ。
女B そして、メロンパンを買いに行く為には、自転車に乗るというプロセスがあります。
片山 微妙な距離なのか?
女B は?
片山 パン屋まで。
女B 例え話ですから。
片山 あ~すまん。微妙な距離なんだな、チャリだもんな。
女B ・・・ええ、微妙な距離なんです。歩くにしてはちょっと遠くて、で晴れてるんです!!
片山 君でも、ムキになることあるんだな。
女B なってません!
片山 あ~分かった。で?なんだっけ?
女B ・・・つまり、結果に辿り着く前に、プロセスの段階でストレスを感じるコトは良くあるんです。それで、そこで感じたストレスが、結果を達成したときの充足感と比較した時に、充足感の方を大きく感じるコトができれば、そのストレスは元々感じなかったのと同じ状態になるのです。
片山 ってことは・・・。
女B ええ、まだ終わってないのです。
片山 まだ、続くの!?
女B そうみたいですね。あ、始まりますよ。
片山 何か、楽しみになってきた!


  場面は更に戻って廃屋
  ボスが椅子に座っている
  その足下で女A 縛られている
  ボスを挟むように男A 男B
  

ボス で?データを何処に隠した?


  女A 黙っている
  

ボス そうやって、だんまりを決め込んでいると俺達もちょっと乱暴なことをしなくちゃならんのだよ。


  女A それでも黙っている
  
  
ボス おい!


  ボス 男Aの方を向いて声をかける
  
  
男A はい!
ボス 見つからないのか?こいつの持ち出したデータは。
男A ええ、こいつの家も探したんですが、それらしいのは・・・。


  ボス 女Aの方に向き直り
  
  
ボス やっぱり、お前に聞かなきゃならないみたいだな。


  女A 黙っている
  ボス それを見て今度は男Bの方を向き
  

ボス おい!やれ!
男B はい!


  男B 懐からナイフを取り出し女Aに突き立てる
  同時に激しい音楽が鳴り響く
  音楽と共に健介 登場
  

ボス 誰だ!おまえ!!
健介 俺か?俺は!スーパーサラリーマン!!新!谷!!
ボス スーパーサラリーマン?なんだそれ?


  男A、男B おおげさに驚く
  

男A お、おまえがスーパーサラリーマン新谷ぃ!?
男B ま、まさか!?
ボス なんだ、お前等、こいつを知ってるのか?
男A 知ってるも何も、金さえ払えばどんな汚い依頼でも完璧に遂行する伝説のサラリーマン・・・。
ボス は?
男B こいつの顔を見た奴に待っているのは・・・
ボス 何だよ。


  男A、男B 声をそろえて
  
  
2人 死!!
ボス 何!?
男A やばいですよ、こんな生けるゴルゴ13みたいな奴相手にするのは!
ボス 何、言ってやがる、こっちは3人向こうは1人プラス人質だぞ!
男B でも・・・。
ボス でももへったくれもねえ!!やっちまえ!!


  男B ナイフを振りかぶり健介に斬りかかる
  

男B うわーっ!!

  健介 男Bの初撃をかわし腹部へ拳を叩きつける
  男B うなり声をあげ、その場にへたりこむ
  
  
ボス お、おまえ行け!!
男A う、うわーっ!


  男A 健介につかみかかる
  健介 男Aの手を取り投げ飛ばし、仰向けになった男Aの腹部に拳を落とす
  
  
健介 これで、1対1だな。
ボス うるせーっ!近づくな近づくとこいつの命はねえぞ!!


  ボス 懐から拳銃を取り出し、女Aを盾にし健介に向かう
  

健介 随分、物騒なモノを持ってるんだな。
ボス 近づくなよ!
健介 お前の方が、その女が死んだら困るんじゃないのか?
ボス なんだと!
健介 俺は別に困らんぞ。報酬が手に入らないだけで。
ボス くそ!


  ボス 女Aを健介の方に押しだし拳銃を両手で構える
  
  
ボス くらえ!!


  ボス 拳銃を放つ
  同時に健介 少し右に身を倒す
  女A 健介の方に駆け寄り健介の後ろに回り込む
  
  
健介 当たらんな。
ボス くそ!


  ボス 続けざまに2発拳銃を放つ
  健介 ボスの方に近づきながら、身を右、左と揺らし弾をかわす
  
  
ボス 何!?

  
  健介 そのままボスの目の前に立ち構える拳銃を手で押さえ、銃口をボスの頭に向ける
  

ボス や、やめろ・・・。


  健介 ボスの指の上から引き金を押さえ
  
  
健介 バン!!!!!!!!
ボス わーっ!


  ボス 倒れ込む
  健介 腰を屈め、ボスの様子を確かめる
  
  
健介 はい!OK!!


  その声と共に男A、男B起きあがる
  

男A ちょっとは手加減してくれよ~。
健介 したよ。でもあんまり手を抜いたら、わざとらしいだろ?
男A そりゃそうだが・・・。
健介 それに、わざとらしいと言えば、お前等の演技どうにかしてくれよ、ばれるかと思ってヒヤヒヤしたぞ!
男A すまん・・・。
男B すんません・・・。
健介 この人をみろ!完璧な演技だったぞ!


  健介 女Aの方を見遣る
  
  
男A そいつ、台詞ねえじゃんか!!
健介 そういう問題じゃない!演技は心だ!!
男A ・・なんで、そんなんで怒られなきゃいけねえんだ?
健介 あと、拳銃持ってるなら先に言っておいてくれよ。あれやるのには準備運動が必要なんだから!
男A 準備運動?
健介 ああ。マサイ族のトコにステイして視力を8.0まであげとかないと、危険なの。
男A あ、ああそうなんだ・・・それは申し訳ない。
健介 まあ、これで、みんな幸せってコトでいいか?
男A ああ。ありがとう。
男B でも・・・
男A 何だ?
男B ボス・・・どうします?

  
  男A ボスの方を見遣り
  
  
男A あー失禁してるゾ。
男B 気がついたら、ついたで・・・。
男A そうだよなあ・・・逃げるか?
男B え?
男A 決めた!俺逃げるわ!
男B じゃ、じゃあ俺も!
健介 なんだ、お前等も逃げるのか?
男A ああ、そうする。なんか、馬鹿らしくなってきた。
健介 よし!じゃあ、一件落着ってコトで。


  健介 倒れてるボスの上に名刺を落とし
  
  
健介 困った時は、ご用命ください!!
男A その、見境無く名刺渡すのやめた方がいいぞ。
健介 そうか?
男A ああ・・・。


  全員笑う
  音楽が激しく鳴り響く
  場面変わって研究室
  片山 モニターから離れながら
  

片山 何で俺なんだ?
女B はい?
片山 だから、何でここに出てくるボスが俺の顔をしてるんだ?
女B あー・・・それは仕方無いですよ。
片山 どうして?
女B 考えてみて下さい。自分の夢の中に見ず知らずの全くの他人なんかが出てきたコトなんてありますか?
片山 うーん・・・言われてみれば・・・なかった・・かな?
女B 知らない人が、全く出てこない訳ではないんですけど、主要人物ではまず出てきません。
片山 そうなのか・・・。
女B その上、このシステムではあらかじめアンケートを採って身近な人物の関係を調査し、顔写真を頂いて、希望のキャスティングで映像を作り上げているのです。
片山 ってコトは何か?俺が悪役になってるのは、新谷さんの希望だってコトか?
女B いや、そう言うわけでは・・・。
片山 じゃあ、何でだよ。
女B 普通は、快く思って無い人物をキャスティングするんですが・・・。
片山 うん。
女B 特に思いつかないとのことでしたので・・・。
片山 で?
女B じゃあ、関係性の薄い人物にしようと思いまして・・・。
片山 誰が?
女B え?
片山 誰が思ったの?関係性の薄い人物にしようって。
女B ・・・私が。
片山 成程ね・・・ま、いいけど。ん?ってことは今の夢はたまたま見た訳ではなくて、元からこういう話があったってコト?
女B まあ、そういうコトですね。
片山 誰がシナリオ書いたんだ?こんなコント。
女B 所長です。
片山 あいつ・・・。


  片山腕を組んで考えている
  
  
片山 それじゃあ、やっぱりこの夢でストレスを軽減できてるかわからないじゃないか!?うちの所長の妄想見せられたって!
女B いえ、所長が造ったのは本当のベースの部分だけです。
片山 ベース?
女B ええ、登場人物の設定と結果だけが決まっているんです。今回の場合、チンピラの男2人と追われてる女、それとチンピラを束ねてるボス、そして自分。これだけです。
片山 それだけ?
女B ええ、それだけです。ですから与えられた状況の中で、どのようなプロセスを辿って結果へと辿り着くのかに関しては、被験者次第という訳です。
片山 でも、それじゃあ凄い気弱な奴だったら、いつまでも結果に辿り着かなくなったりしないのか?
女B ええ、基本的には望む結果が手に入れられるまで永遠に話は終わりませんので。もっとも、アンケートを行っていますので、そのような方は最初から今回のようなストーリーは選択しません。
片山 なるほど、上手くできたもんだな。
女B ええ。
片山 ま、と言うことは、今回のスーパーサラリーマンは新谷が作り上げたのであって、所長が作った訳ではないってこと?
女B はい。
片山 それを聞いて安心したよ。これからずっと、あんなのばかり見せられるのかと考えたらうんざりする。
女B それは、私もです。


  寝ている健介が少し動く
  
  
健介 んん~・・・。
片山 ん?
女B あ、目覚めます。


  健介 目を覚ます
  
  
片山 お目覚めですか?
健介 んん。


  女B 健介についている装置を外す
  健介 ようやく意識がはっきりしてくる
  
  
片山 気分はどうですか?
健介 あ?ああ、まあ気分良く目覚めた朝に似てるかな。
片山 なるほど。


  女B 装置を外し終え、脈を取り心音を聞いて
  
  
女B はい、今日はこれで終了になります。
健介 ああ。ありがとうございました。


  そう言われ健介 立ち上がる
  女B 片づけを始める
  
  
片山 どうでしたか?はじめてシステムを利用されて。
健介 うーん、まあまあかな?
片山 でも、どうしてこの夢を?
健介 いや、結局どんな夢を見るか決まられなくて、一般的なモノをって頼んだら、ヒーローものだったってだけで・・・。
片山 ヒーローもの?


  片山 女Bの方を見遣り
  

片山 これってヒーローものだったの?
女B ええ、一応。
片山 でも、ヒーローものだったら変身とかしないか?
女B それは・・・。
健介 あ、多分それは私のせい・・・でしょ?
女B ええ、まあ・・。
片山 どういうこと?
女B 本来なら、変身するハズなんですけど・・・。
健介 私が子供の頃からあまりヒーローものを見てなかったので、どういう流れで変身するのかが分からなかったんですよ。
片山 はあ・・・。
健介 まあ、そうすると、変身しないヒーローってコトであんな風になったんじゃないかな。
片山 なるほど・・・で、どうしますか?これから。
健介 そうですね・・・ちょっと続けてみようかなと思ってるんですけど。
片山 本当ですか?
健介 ええ、できれば。
片山 わかりました。それでは、次は・・・。


  片山 そういうと女Bの方を向く
  

女B そうですね・・・じゃあ次は再来週の土曜日で如何ですか?
健介 ええ、お願いします。
女B 分かりました。
片山 それでは、またお待ちしておりますので。


  健介 荷物を手に取り部屋を出て行く
  

女B あ!
健介 はい?


  健介 振り向く
  

女B できれば、次はどんな夢を見たいか決めてきて頂けると・・・
健介 あー・・・今度はもう決まってます。
女B そうですか、それなら結構です。
健介 じゃあ、お世話様でした。


  健介 出て行く



  健介、妻 自宅 リビングで座っている
  いつものようにワインを飲みながら
  

妻  で?どうだったの?
健介 ん?うーん・・・。
妻  何?
健介 いや、まあまあ・・・かな。
妻  ふーん。それで、結局どんな夢を見たの?
健介 なんだか、ヒーローもの。
妻  ヒーローもの?また、何で?
健介 いや、結局、夢を決められなくてさ。他の人はどんなのが多いの?って聞いたら俺くらいの年齢だとヒーローものが多いって言われて・・・。
妻  そうなの?
健介 ああ。なんだか、子供の頃描いていた自分の姿とのギャップに苦しんでるコトが多いんだってさ。
妻  苦しんでるの?
健介 いや、全く自覚はないけど。
妻  じゃあ、駄目だったんじゃないの?
健介 ん~・・・そうでもない、かな?
妻  そうなの?
健介 ああ、だから、まあまあ。
妻  へー・・・。あなたのヒーローなんて想像できない。
健介 だよな・・・。俺も想像できない。
妻  でも、なったんでしょ?
健介 ああ、なった。
妻  どんなだったの?
健介 ん~サラリーマン。
妻  全然、ヒーローじゃない。
健介 うん、確かに。
妻  それが、どんなヒーローになるの?
健介 なんて言ったらいいのかなあ・・・ま、みんなの幸せを願う・・・のかな?
妻  それってやっぱりヒーローじゃない!


  妻 少し声を荒げる
  
  
健介 なんだ?そんなに俺のヒーローに興味があるのか?
妻  あるわよ。だって、全く全然ちっとも想像できないんだもん。
健介 そんなにか?
妻  え?
健介 そんなに想像できないか?
妻  え??
健介 俺のヒーロー・・・。
妻  まあ・・・で、変身するとどんな風になるの?
健介 変身?しないよ。
妻  変身しないでどうするの!?
健介 いや、そのままスーツで闘ったけど・・・。
妻  もう分かってない!何にも!
健介 何が?
妻  いい?あなたは変身は何の為にすると思ってる?
健介 そりゃ、強くなるためだろ?
妻  違う。
健介 え?違うの?
妻  違うよ、全然違う。
健介 どういうコトだよ。
妻  あのさあ、もし普通の人間がどんなに頑張っても太刀打ち出来ないほどの強さを持った人がいるとするでしょ?
健介 ああ。
妻  最初は、確かに助けられた人もいるわけだし、みんな受け入れてくれると思うよ。でもね・・・。

  
  健介 何かを思い出したように顔を上げ
  
  
健介 強すぎる力は・・・・
妻  そう。
健介 それで・・・。
妻  だから変身になくちゃならないの。普通の人間との生活をするためには変身せざるを得ないの。分かった?
健介 ああ。
妻  もう、変身しないでヒーローだなんて・・・そんなのヒーローじゃない!!
健介 すまん・・・。
妻  ん?でもまたチャンスはあるのよね?じゃあ次はちゃんと変身してね。
健介 いやあ・・・
妻  何?
健介 多分、もうヒーローはいいかな・・・?
妻  なんで?
健介 なんて、言うのかなあ・・・普段の延長線なんだよね・・・
妻  ん?
健介 困ってる人、助けるだけだもん。変身もないし。
妻  じゃあ、スカッ!としなかったの?
健介 しないよ。夢の中でも悩んでばかりで・・・。
妻  そっか・・・。見たかったな、ヒーロー。
健介 すいませんね。全くヒーローっぽくなくて。
妻  すねない、すねない。だから言ったでしょ?ヒーローだったら普通の生活は出来ないって。
健介 ・・・
妻  もう・・じゃあどうするの?
健介 何が?
妻  次から、何の夢見るの?
健介 あ~それ?
妻  何?もう決まってるの?
健介 ああ。
妻  何?
健介 教えない。
妻  何で?


  健介 ワインのボトルを持ち妻のグラスに注ぐ
  

健介 まあ、いいじゃない。別に。
妻  あー隠し事だ。
健介 別に隠してないよ。
妻  隠してるじゃない。
健介 隠してないって。
妻  じゃあ教えてよ。
健介 えっと・・・物凄く現実離れしてて、物凄くスカッとすることを思い出したんだよ。
妻  だから、教えてって・・・思い出した?
健介 ああ。
妻  思い出したってコトは前にやったことがあるの?
健介 ああ。
妻  ・・・私は?
健介 おまえがスカッとしたかどうかは分からないけど。
妻  私もいたの?
健介 ああ。
妻  何?それ。
健介 なんだろうねえ・・・。当ててみな?
妻  え~教えてくれないの?
健介 嫌だよ、恥ずかしい。
妻  恥ずかしい?恥ずかしいことなの?
健介 恥ずかしいよ、そりゃ。
妻  え~!!!
健介 何だよ?
妻  やっぱり、アレ?
健介 それは、違うって結論になったろ?それにアレなら別に・・・夢にわざわざ見なくたって・・なあ?
妻  ヤラシイ・・・。
健介 おまえが言ったんだろ!?
妻  もう・・・何なの?
健介 いいじゃん、別に。それにほら?俺だっておまえがスポーツクラブ通ってるの知らなかった訳だしさ。
妻  今は知ってるでしょ?
健介 今は知ってるけど、ずっと知らなかったんだから。
妻  だから?
健介 だから、ちょっとの間だけ秘密にさせといて。
妻  え~!!
健介 少しくらいの秘密は必要だよ?全部が分かってたら発見が無くて面白くない。
妻  ん・・・・分かった。でもちゃんと教えてよ。
健介 ああ。そのうちな。
妻  そのうち・・・か。
健介 何?
妻  ううん。なんでもない。


  妻 健介のグラスにワインを注ぐ


つづく


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